奈良ゆかりのアーティスト

奈良に生まれ育った、
奈良と長年深い関係があるなど、
奈良県にかかわりのある
アーティストを紹介。
国内外を問わずさまざまな分野で
活躍される方々から
奈良への、そして
作品制作にかける思いを
お話しいただきます。

01TakataniShiro

  • アーティスト
  • 高谷史郎 氏

Profile

1963年、奈良県北葛城郡王寺町生まれ。1984年からアーティスト・グループ「ダムタイプ」の活動に参加。さまざまなメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わり、世界各地の劇場や美術館、アートセンター等で公演・展示を行う。1998年から「ダムタイプ」の活動と並行して個人の制作活動を開始。また、坂本龍一や野村萬斎、中谷芙二子、樂吉左衞門らとのコラボレーションも多数。平成 26 年度 芸術選奨メディア芸術部門 文部科学大臣賞受賞。2022 年、第 59 回ベネチア・ビエンナーレにダムタイプとして出品予定。

20歳まで過ごした王寺町での日々。
文化財に触れるのは過去にトリップするような感覚。

私は生まれてから20歳の頃まで大阪にほど近い王寺町に住んでいました。住宅地の多い町のため、奈良に育ったといってもそれほど寺社仏閣に親しんだことはありませんでしたが、それでも友人と自転車で法隆寺まで走ったり、近所の神社の夏祭りを心待ちにしていた記憶は残っています。子どもの頃、どこかのお寺の壁を見て「この壁はいつからこうしてあるのだろう。聖徳太子もこの壁を見たのだろうか」と疑問がわき、歴史をトリップする感覚がよぎったことははっきりと覚えています。奈良の町には当たり前に文化財があり、そこに住む人が守り続けている印象があります。みんなで公共のものを自分のもののように大切にする、守り続けるという風土が自然に育まれていることが奈良の独自性だと感じます。

Dumb Type《TRACE/REACT II》2020
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2020 年 東京都現代美術館
写真:福永一夫
無数の英単語が相互の関係性によって位置が決定され、現れた言葉は、浮遊し、次第に加速し、交錯を繰り返しながら、最後には動力を失ったかのように漂い、落ちていく。重力からの解放を思わせる空間がそこに出現している。

中学から高校時代は山岳部に所属し、山へ。
河原で見上げた木々の闇と星の輝きは今も忘れない。

中学・高校も奈良の学校で、私は山岳部に所属していました。山が好きで憧れを抱き、毎月のように部活の仲間と奈良の山へ。重い荷物を背負ってひたすら頂上をめざすのは本当に辛くて大変でしたが、そこで見る景色や自然そのままの植物が何よりの楽しみでした。ある日、友人と2人で大峰山に出かけ、河原で野営をすることに。ごつごつとした石の上に寝袋にくるまって空を見上げると、見たことのない満天の星空が。さらに視線を動かすと木々と思われる真っ黒な闇が広がっていました。暗闇に目が慣れてくると星の瞬きやかすかな動きがわかります。「自分はこの世界の中でちっぽけな存在なのだな」と思えた貴重な体験でした。

Dumb Type《Playback》2018
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019/2020 年 東京都現代美術館
写真左:福永一夫 写真右:表恒匡
パフォーマンス《Pleasure Life》(1988 年)をベースに1989 年に制作したインスタレーション《Playback》 に基づいて、2018 年ポンピドゥー・センター・メッスでの個展のため新たに制作されたインスタレーション。 80 年代の音源、英語教材の声、1977 年のNASA による惑星探査機ボイジャーに搭載したレコードに記録された55 種類の言語の挨拶に、新たにレコーディングした素材を加えて再生。

自然への関心が、科学へ、アートへ。
捉える視点を転換して発想する面白さは同じ。

子どもの頃から科学が好きで、自然の中に科学があることを感じながら育ち、その関心はデザインへ、アートへと移り変わっていきました。まったく異なる分野のように思えますが、私の根底には共通性があります。あの満天の星空のもとで夜の闇に溶け込んだ瞬間、「自分が動いているのか、空が動いているのか」という視点の転換が芽生えました。このあらゆる見方で物事を考えることは今のアート作品制作も同じです。大学時代から「ダムタイプ」のメンバーとしてテクノロジーを駆使しながら新しい表現に挑んできましたが、私にとって創作活動は技術と人間関係によるシステム。どの現場に立っても、一緒に取り組むメンバーとのコミュニケーションと、あらゆる方向から捉えたバランス感を重視してコーディネートしていくことに何よりのおもしろさを感じます。坂本龍一さんや野村萬斎さんなどとのコラボレーションに積極的なのも、こうしたコーディネーション力を発揮して、鑑賞者に新しい“引っ掛かり”を形成したいと考えていることが大きいですね。

2011年に中谷芙二子氏が石舞台古墳(奈良県明日香村)で発表した霧の彫刻『霧立つASUKA…息吹く古代の夢』では、高谷さんが照明デザインを担当。

史上初、直接選定されたベネチア・ビエンナーレへの出品。
日本館にふさわしいインスタレーションを構想中。

2022年に延期になった第59回ベネチア・ビエンナーレにダムタイプとして出品することが決まっています。現代美術の国際美術展覧会であるこの場に日本を代表して出品できること、しかも過去に例のない選考委員会による直接選定で選ばれたことを光栄に思います。どのような作品にするかはまだこれからですが、自分たちがやりたいことを起点に組み立てていきたい。会場となる日本館の特殊な空間を生かした、音、光、モノの複合的なインスタレーションになることは間違いないと思います。どうぞご期待ください。